新型アクロマート ・ レンズ研磨




1.手動研磨用、光学ガラス材 etc 

アクロマートレンズの場合、研磨機械を使わず、
手磨きも良好です。

80mmF 8の場合、1面の研磨量(曲率の深さ)の設計値は約 3mm、実際の研磨量は設計値の1.5倍(BSL7)〜2倍(TIM2)程度あるので、光学ガラスの厚みは15mm前後が良いでしょう。  
オハラ・光学ガラス

光学ガラスの発注の際、平行精度・平面精度はそれなりに必要ですが、特に指定する必要は無いでしょう。
光学ガラス精度(公差)の指定は、直径のみで良いでしょう。およそ +0/-0.4mm で、低コストになります。

ガラスの屈折率の公差は、0.00050 (Nd:±50) 指定で良好です。程度表面はスリガラス状で構いません。また、適正なアニール (歪みの補正) 等も必要ですが、加工メーカーの基準に委ねることになります。(高倍率用途の場合は、適正な公差の指定が必要)


光学ガラスの相手玉は、普通の窓ガラス(青板ガラス) 2枚です。厚みは12mm位で良いでしょう。





オハラBSL7(BK7)、及び TIM2(F2)。青板ガラス(レンズ皿) x 2枚




※ (備考) 光学ガラスの発注書 (例)



○ プレス成型ガラス  (円形)
   外径    厚さ   硝種          数量  単価(円/税抜)
Φ83+0/-0.4 15mm  S-BSL7 (オハラ)  1個  10,000
Φ83+0/-0.4 15mm  S-TIM2 (オハラ)   1個  10,000
Nd:±50


(備考)
・面精度、平行度不問 (両面平面・スリガラス)
・アニール(歪み) 不問
・コバ、丸目加工




完成スペック   
スポット図


r1 = 315mm/9mm/BSL7 (BK7)
r2 = -280mm/0.2mm/AIR
r3 = -280mm/7mm/TIM2 (F2)
r4 = -2100mm/570mm/AIR

r5 =    0mm/30mm/BSL7 (BK7)
r6 =    0mm/40mm/AIR


レンズ構成図





新型アクロマート、設計概論 




2.研磨工程(砂ズリ) の概要

アクロマートレンズの研磨は、ニュートン反射鏡と同じように、カーボランダム等の研磨砂を使用します。ガラスは、円形のベニア板に軽く固定します。

80mmF8・アクロマートレンズの場合、r2・r3の焦点距離は160mm前後、F値で2程度と極端に短焦点ですので、研磨スピード向上の為にやや工夫が必要です。以下の3つの動きとします。



A運動  円運動、直径の1.5倍位のモーションで、100回/分 ストローク前後
  ↓
B運動  凹ガラス(上)の回転運動、20ストローク/回程度のランダム回転
  ↓
C運動  凸ガラス(下)の回転運動、40ストローク/回程度のランダム逆回転


また、研磨が進むうちにコバが細くなりますので、縁の大きな欠けを作らないように、砥石でコバ摺りをマメにしておきます。砥石は水をつけながら行います。

対物レンズ研磨 アクロマートT




3.研磨工程(砂ズリ) 粗ズリ〜中ズリ

粗摺りは、カーボランダム80番前後が良好です。研磨の切れ味が良く、F2相当の凹凸作成も、1面あたり3時間程度で完了します。目標とするRの99%程度まで進捗させておきます(Rの浅い4面は急激に進捗するので注)Rの測定は、デプスマイクロメーター等で凹レンズ側の深さを測定して計算します。(備考) 
ミツトヨ

計算式は、
r-(((r^2)-(y^2))^0.5) です。
80mmF8・r2-r3 の場合、280-(((280^2)-(40^2))^0.5) ≒2.87mm です。

r1−r4 の研磨の順番はどの順でも良いでしょう。r1、r4の相手玉は青板ガラスとなります。

中摺りは、カーボランダム240番前後で、20分程反転ズリを行った後に、やや多めに順ズリを進めて砂目を均しつつ、目標のRにキレイに合わせます(反転ズリは順ズリよりもRが変化しやすいので注)深さの誤差は、10ミクロン程度まで合致させれば良好です。


レンズとレンズ皿 (青板ガラス)







4.研磨工程(砂ズリ) 仕上げズリ

仕上げ摺りは、エメリー800番・1500番前後が良好です。


中摺りと同じく、20分程反転ズリを行った後、やや多めに順ズリを行いRを揃えます。カーブの深さもチェックしておきます。砂目が細かくRの曲率が小さいので、接合の危険性が増加します。水分補給はマメに行ないます。


1500番が終了したレンズは、きめが細かい美しいスリガラス状で、うっすら透けています。以後、鏡面仕上げの工程に移行します。


※ レンズ研磨の難易度について・・

対物レンズの手磨きが、純ニュートン反射鏡等と比較し煩雑な理由は、3つの精度、即ち面精度・曲率精度・偏芯精度を、4面以上で出す必要があることです。(ニュートン反射主鏡は、1面の面精度のみ)

面精度に関しては、反射系と違い透過光なので、1λ程度の誤差は許されます。また測定器具に関し必ず必要なものは、曲率精度を測定するデプスマイクロメーター等があります。そして偏芯精度含めた精密な測定器は高価です。





5.研磨パッドでのレンズ鏡面研磨
 

砂ズリが完了したレンズは、鏡面研磨作業に移行します。

一般的に、レンズの鏡面研磨は、研磨パッド(セリウムパッド)を使用します。昔ながらのピッチ(アスファルト)研磨と比較し、研磨面作成の手間、温度調整の手間が著しく短縮されます。

パッドの表面は溝付き、そして裏面は両面テープ付きのものですと、ハサミで丸く切って貼り付けるだけです。レンズ曲面の小さなものは、予め周辺部に切れ込みを入れておくと、キレイに密着します。上手にテープを剥がすことか出来れば、何度も利用可能です。

レンズ鏡面研磨




6.レンズ鏡面研磨の詳細。


鏡面研磨材は、セリウムを水に溶かしたものを使用します。ガラスは、円形のベニア板に軽く固定します。
研磨運動は、砂ズリの時とほぼ同一です。以下の3つの動きとします。



A運動  円運動、直径の1.5倍位のモーションで、100回/分 ストローク前後
  ↓
B運動  レンズ(上)の回転運動、40ストローク/回程度のランダム回転
  ↓
C運動  パット盤(下)の回転運動、80ストローク/回程度のランダム逆回転


鏡面研磨は、開始約 20分程で半透明になります。全面ほぼ均一に研磨が進んでいればそのまま更に1時間程研磨します。一般的には中央の方がやや進んで研磨されるときが多い様子です。反転研磨ですと、研磨傾向は逆になる様子ですが、偏芯しやすくなるので注意が必要です。

順調に鏡面研磨が進めば、1面あたり 1時間半程度で、ほぼ全面が透明の美しいレンズとなります。




(仮) 完成、8糎 (センチ)、新型 アクロマート 対物レンズ  ( No.3/ 2015.11 )




7.精密レンズ鏡面研磨への課題。


以上の工程、約 18〜24時間程度で、新型・アクロマート対物レンズは(仮)完成となります。低倍率眼視、
及び、直焦点写真なら、この工程のみでほぼ必要な精度が出ます。

r 3面は凹面ですので、簡易なフーコーテストでも、単独の面状況を把握出来ます。またr 2面と同曲率設計ですので、重ね合わせてニュートン・フリンジを見て、レンズ鏡面研磨後の曲率差異等も把握出来ます。


高倍率眼視・拡大写真の場合は、反射望遠鏡と同じく、コリメーション・テスター (フーコー・テスター) 等を使用して研磨面を測定し、修正研磨を行い、精度を上げていくことになります。

レンズのコリメーション・テスターは、反射鏡と違い透過光なので、高精度平面鏡で光線を反射させて、ナイフエッジに導きます。また、レンズ4面〜の総合的な球面収差を測定することになりますので、対物セル等に組込んだ状態での精度測定となります。球面レンズですので、影が出来るだけ薄くなれば完成です。

測定するのは、色毎の球面収差なので、単色光の光源も必要です。





(続く・・)




設計 ・数学物理学 メモ etc 




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