新型アクロマート ・ 設計概論




1.望遠鏡・対物レンズ設計の基本


望遠鏡の対物レンズの設計において、その光学性能の目標値として、
ストレールレシオ が挙げられます。

F 8〜クラスの標準的なアクロマート&アポクロマート対物レンズの設計において、視野周辺部における星像等の悪化の原因である、非点・湾曲・歪曲収差は、通常の観測・撮影に大きな支障が出ることは少なく。設計の目標値は視野中心部の星像 ≒ 球面収差、の補正に集約されます。

中心星像を客観的に示す数値が、ストレール比と呼ばれる、即ち波動光学において示される理論的エアリーディスク径 ≒レイリー値への集光割合となります。 
 ストレールレシオの図式化

焦点位置でのエアリーディスク直径 は、
2.44*λF の概算式で算出されます。

80mm/F 8 の場合、2.44 * 0.0005 * 8 ≒ 約 10 ミクロンの星像となります。
角度では、244/口径 D mmの概算式で、 244/80≒ 約 3秒角の星像(エアリーディスク)となります




2.比視感度の分析

肉眼で認識可能な光、即ち可視光線は、波長 400〜770nm程度と、比較的狭い範囲に留まります。天体観測における微光天体の認識能力は、暗所における比視感度曲線に従います。一方、月などの明るい天体の場合は明所における比視感度曲線に従います

明所での曲線と比較し、暗所での感度のピーク波長は約 500nm(0.0005mm)と青緑色となります。よって、対物レンズの球面収差は、明所での感度のピークである約 550nmとの中間付近に集光するように設計すると、より良好です。(但し、火星のような赤く輝度の高い対象ではシャープネスが損なわれます。)

具体的には、deF線の主要3線がほぼ並ぶようにするのが適切です。F線の青ハロの発生が少ない為、一見アポクロマート的な画質です(但し微妙な赤ハロの発生で、面積体のコントラスト(MTF)が低下します。)


球面収差図







光を捉える視覚細胞は、暗所で機能する杆体と、明所で機能する錐体の、2 種類があります。

錐体には
赤緑青の3種類があります。赤とはいっても極大値は550nm付近と、e線(緑色)付近に相当します。550nmは、明所における最大感度に近似します。また錐体は、色情報と形の情報が共に機能していますが、杆体は色情報と形の情報も共に不足しています。暗い天体(星雲等)がモノトーンに近く、ピンぼけにみえるのはこの為です。

暗所、明所で色の情報と形の情報を認識させる為には、光を 480nm-600nm間程度に多く集める必要があります。風景や月惑星の場合は、更に640nm付近まで補正しないと、色バランスが悪く(色味が薄く不鮮明に)
感じられます。  
肉眼テスト




○ 目的別の、アクロマートレンズ設計 


一般的なアクロマートは、d線(黄)とe線(緑)の2色色消しの設計で、F線(青)は、80mm F8 前後の中焦点では、理論的エアリーディスク(レイリー値)からはみ出す設計で、当然のことながら青ハロが目立ちます。球面収差補正の中心波長は、d線とe線のほぼ中間の560nm付近となります。

新型アクロマートは、80mmF 8前後で、d線(黄)・e線(緑)・F線(青)の3色色消しを、ほぼレイリー値の範囲で行うために、青〜白色の星々のシャープさが増し、月等の青ハロも減少します。球面収差補正の中心波長は、d線とF線のほぼ中間の、
535nm 付近となります。

新型 アクロマート設計 (F 8 クラス、
、3線補正)で、星雲星団 ・彗星 ・月・重星 etc で、F15クラスと同等のシャープネスとなります。480nm-580nm間の主要可視光線を重点的に補正し、良好な球面収差補正(ストレールレシオ)となっています。青ハロが減少し、すっきりとした色バランスとなっています。

更に、g線(紫)のハロをも減少させた、星野用の設計 (中心波長 510nm前後)も可能ですが、逆にC線(赤)のハロが増加し、惑星等のシャープネスは低下します。 
アクロマート ・比較データ


(一覧表)


色消し線  補正中心波長 用途 詳細
585 nm 火星眼視用 星野は不適。
560 nm 一般用 (旧型) 旧型、星野はやや不適。  (明所)
535 nm 一般用 (新型)  ★ 新型、青ハロは減少。 (明所、暗所)
510 nm 星野用 青ハロは更に減少。    (暗所)

= 656 nm
= 587 nm
= 546 nm
= 486 nm
= 435 nm




○ 視感度分布の詳細


一般的なレンズ設計の場合、
、5線評価ですが、より詳しく評価 (ストレールレシオ) する為には、
9線、若しくは11線程度に細分化すると、より正確です。

、3線補正で、約 80% の光量が収束します。

波長 (nm) 平均視感度 (%) 明所視感度 (%) 暗所視感度 (%)
656 
620 12
587  10 15
565 15 20 10
546  20 20 20
515 20 15 25
486  15 22
460 12
435 








★ 80mm・新型アクロマート (1) 


標準的、新型 アクロマート、一般・星野用です。 (眼視&写真用)

ベーシックなアクロマート用ガラス(オハラBSL−7+TIM2)を使用し、使いやすいF8のスペックでの設計で、
480nm-580nm間の主要可視光線を重点的に補正し、良好な球面収差補正となっています。青ハロが減少し、すっきりとした色バランスとなっています。
、3線がエアリーディスク内に収まります。

レデューサ併用で、F 5.6 前後の明るさとなります。

ストレールレシオは、明暗所平均で約 75% です。
 設計コンセプトetc


球面収差図  80mm F 8  640mm







レンズ構成





完成スペックは、以下の数値 (自作バージョン)

r1 = 315mm/9mm/BK7 (BSL7)
r2 = -280mm/0.2mm/AIR
r3 = -280mm/7mm/F2 (TIM2)
r4 = -2100mm/635mm/AIR

(BK7(BSL7)/ pri 30mm)




★ 80mm・新型アクロマート (2) 


新型 アクロマート、星野用です。 (眼視&写真用)

460nm-560nm間の主要可視光線を重点的に補正し、良好な球面収差補正となっています。
青ハロが減少し、紫 g線ハロも減少しています。
 ストレールレシオは、明暗所平均で約 70%

、2線がエアリーディスク内に収まります。


完成スペックは、以下の数値 (自作バージョン)

r1 = 335mm/9mm/BK7 (BSL7)
r2 = -280mm/0.2mm/AIR
r3 = -280mm/7mm/F2 (TIM2)
r4 = -1600mm/550mm/AIR

(BK7(BSL7)/ pri 30mm)




(自作 80mm アクロマート)





設計データ




○ 120〜150mm 、大口径 ・ 新型 アクロマート への展開。 (レンズ・ユニット化)


昭和40年代以前は、120〜150mm クラスの屈折望遠鏡の大半は、BK7−F2タイプの長焦点アクロマート(F15)でした。長大で、青ハロも目立つものでした。

新型 アクロマート設計 (F12 クラス)で、星雲星団 ・彗星 ・月・重星 etc で、旧・F15クラスと同等レベルのシャープネスとなります。480nm-580nm間の主要可視光線 (明所・暗所、平均視感度) を重点的に補正し、良好な球面収差補正(ストレールレシオ)となっています。青ハロが減少し、すっきりとした色バランスとなっています。


、3線が、エアリーディスク内に収まります。


公共用 ・12〜15cm屈折望遠鏡の場合、人の体温による気流の影響を減少させる為にも、やや長めのF12 クラスが良好となります。このクラスですと、タカハシ EM-500 程度の赤道儀が使えます。

、4線補正は、F 25 以上の長さが必要です。




○ 300mm 〜 大口径 ・ アクロマート の考察。 


1900年代初頭は、世界各地で、300mm〜1000mmクラスの、長大屈折望遠鏡が作られました。

長大アクロマート・レンズの設計で、シャープネスを維持する為には、480nm-580nm間の主要可視光線を重点的に補正する必要があります。(3線補正〜 エアリーディスク内に収納。)

旧東京天文台、38cm屈折望遠鏡 (ツアイス製) は、焦点距離10M強 (F27) の長さです。

、3線補正の設計ですと、良好な球面収差補正(ストレールレシオ)です。


光学 設計 etc  




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