レンズ光学 ・ メモ帳 others




★ レンズ設計の黎明期 (欧州)


精密な2枚玉アクロマートレンズが開発されたのは、1810年頃の欧州。フランホーフェルにより、スネルの法則と三角関数等を使った古典的なレンズ設計&研磨法が確立されます(フランフォーフェル型2枚玉対物レンズ≒アクロマートレンズ) その後、リトロー公式が発表され、屈折望遠鏡の対物レンズ設計が更に容易になりました。(接眼レンズはまだハイゲン等のみ)

これらの対物レンズは、主に望遠鏡で使われ、当時も現在もほぼ同じ設計です。(ガウス型レンズは、100年後にカメラレンズとして普及)以後、光学ガラスの製造技術の向上等のお陰で、1960年代迄、大口径アクロマート屈折望遠鏡が作られるようになります。(1970年代以降は、アポクロマート化へ)

カメラレンズも序々に進化していきます。フランフォーフェル型対物レンズは、望遠鏡でも望遠レンズでも使える万能レンズ、ただF8程度の明るさとやや暗いのが欠点でした。

1840年頃に設計された、4枚構成のペッツバール望遠レンズは、高度な幾何光学によるもので、現在でも望遠レンズ、及び望遠鏡 (フォト・ビジュアル望遠レンズ) として、広く使われています。

世界的な光学メーカーの独ツアイス社も、1890年代頃には、カメラレンズ等の量産体制を確立しています。
そして、アイピース等で有名なアッベ・エルフレ・ケーニッヒ等の設計者も続々と生み出します。




★ レンズ設計の黎明期 (日本)


日本において、光学レンズの開発、量産が始まったのは1910年代です。(研究・少量生産は明治から?)
第一次世界大戦で、欧州(ドイツ他)の光学製品の輸入が困難になり、急遽国産化が始まったとされます。

三菱グループの日本光学(ニコン)創立も1910年代、当初はカメラレンズよりも、(軍用)双眼鏡等の生産が多かった様子です。一方では天文台用の大型屈折望遠鏡も製作しています。カメラレンズの製造が急速に伸びてきたのは戦後、1950年代からとなります。(備考) 
nikon その他キャノン、ペンタックス、オリンパス、フジノン等のメーカーも戦後次々に民生用カメラレンズの設計製造を始めます。

カメラレンズの設計は、当時のドイツ・ツァイス等の最先端設計のコピー的なものが多く、コピー天国として揶揄されていた模様です。

ちなみに、1940年代以前は、レンズ設計(光線追跡)は手計算による人海戦術で、球面収差図1枚を作るのに数日かかった様子です。紙と鉛筆、三角関数表と算盤の世界です。

現在では、安価なパソコンとExcel ソフトで簡単に出来るレンズ設計も、黎明期コンピュータではやはり大事業だったようです。1000本以上の真空管を使った、日本で最初のコンピュータ(1956年)の目的がレンズ設計とは、興味深い話です。(備考) 
コンピュータ博物館 




★ 望遠レンズ設計の変革


1940年代以前、民生用の一眼レフカメラが無い時代は、望遠レンズの焦点距離の大半は、135mm以下の中望遠レンズでした。世界〜即ち日本で、一眼レフカメラの量産が始まったのは1957年、それに合わせ次々と、200mm以上の望遠レンズが発売されます。(ちなみに、1950年代は、24〜28mm広角レンズもほとんど無い時代でした、これらは、1960年代以降〜 コンピュータ設計の本格導入後に次々と発売されます。)

ペンタックス etc の先発の日本メーカーは、1950年代に、200mm以上の望遠レンズのラインナップを揃えました。ニコン etc の後発メーカーはやや遅れ、1964年の東京オリンピックに間に合わせた状況でした。
(ニコンの非1眼レフ用望遠レンズは、それ以前にもありました) (備考)
 nikon

東京オリンピック後、ペンタックスは、世界初のフローライト望遠レンズを発売します。 (300mm F 5.6)

1969年頃より、キヤノンのフローライト・レンズの量産が始まり、ニコン他のメーカーも、EDレンズを使用した、球面収差(色収差)の少ない高性能・望遠レンズを発売するようになります。

現代の最先端アポクロマート望遠レンズは、複数のフローライト・ED ガラスを使い、計10枚以上のレンズで、
諸収差を 総合的にコントロールする構成となっています。

 (備考)
 ニコン 800mm F 5.6 望遠レンズ、特許公開データ 
http://patent.astamuse.com/ja/published/JP/No/2011197413







★ 現代の望遠鏡レンズ設計 〜 アポクロマート


望遠鏡レンズの設計においても、コンピュータが導入され始めたのは1960年代からで、それまでは19世紀初頭から使われてきたフランフォーフェル型2枚玉アクロマート対物レンズが大部分でした。(反射望遠鏡は純ニュートン、接眼レンズもクラシックタイプのアッベオルソ・ケーニッヒ・プルースル・エルフレ等が中心)

1970年代には、五藤光学、高橋製作所から小口径のフローライト・アポクロマートが発売され、屈折望遠鏡は急激に進化を始めます。

ニコンやペンタックスのような大手企業もこぞってアポクロマートの望遠鏡を発売するようになったのは1980年代、以後大口径化も進み、現在では30cmクラスのアポクロマートレンズの望遠鏡も製作されています。また、フォトビジュアルと呼ばれる写真用と眼視用の双方の特性を持つ短焦点の対物レンズが出現し始めたのもその頃からです。

現代の最先端アポクロマートレンズは、その流れを引き継ぎ、視野中心の球面収差のみならず周辺のコマ・非点・湾曲・歪曲収差等も総合的にコントロールする、ペッツバールタイプを中心とする、4枚〜8枚玉(レデューサ含む) の、フォト・ビジュアル望遠が、主流となりつつあります。






★ (メモその他 1) エルフレアイピース


望遠鏡で眼視観測する上で重要なアイピース。しかし、1700年代初頭に、2枚玉ハイゲンが考案されてから、実に200年以上、見かけ視野・45度前後の狭いものが使われ続けました。

見かけ視野・60度以上の広角アイピースであるエルフレが開発されたのは1910年代。基本設計は前後対称のプルースルの間に凸レンズを配置したシンプルな構造、シャープな中心像と比較素直な周辺像(歪曲収差は少ない)を有しているので、世界中の望遠鏡・双眼鏡用アイピースとして広まり、現在でも広く使われています。
(新設計の広角アイピースの多くは、歪曲収差が強い)

日本で望遠鏡・双眼鏡用アイピースとして広く知られるようになったのは1960年代以降。アストロ光学のエルフレ32mmは、多くのコメットハンターに使われました。(備考) 
関勉氏サイト 

現在、クラシックな3群5枚(プルースル+両凸レンズ)のエルフレアイピースは、ミード等が発売しています。
(5 エレメント・プルースル)。マルチコーティング性能の向上で、美しい視野です。







★ (メモその他 2) フローライト (蛍石) レンズ


アクロマートレンズを遥かに上回る球面収差補正性能を持つフローライト(蛍石・CaF2)が、顕微鏡等の小口径レンズで採用されたのは19世紀末、100年以上前のことです。

望遠鏡・望遠レンズ等の中大口径フローライトの製品化は遅れ、1960年代となります。ペンタックスが、300mmF5.6の望遠レンズを発表、以後は、キヤノン、高橋製作所等が相次いで量産品を発売、現在もロングセラーとなっています。国外では、ツアイスが1980年代より、3枚玉フローライト望遠鏡を発表。(現在は休止)

フローライトに良く似たスーパーEDレンズ(オハラ・FPL-53等)の製品は1990年頃に登場。現在では国内外で、高級アポクロマート市場をフローライトと2分しています。現在、大口径フローライトレンズは、口径300mm程度まで実用化されています。(備考) 
キャノン・オプトロン

光学メモ+




★ (メモその他 3) フローライトレンズの相玉 〜 クルツフリント


フローライト(蛍石・CaF2)、或いはED対物レンズの相玉(対のレンズ)は、ドイツ・ショット社のKF(クラウンフリント)等がよく使われますが、1990年代前後は、KF カテゴリー付近のクルツフリント、特にKZF5がよく使われました。収差曲線が美しい?と好評でした。 
レンズ設計データ

KZF5 は、短波長 g 線の分散が少なく、青紫ハロの少ないクリアーなアポクロマートを造る上で不可欠でしたが、現在では製造されておらず、KF カテゴリーのガラスも、僅か1種類が残るのみです。




ショット・光学ガラス




★ (メモその他 4) 新型・ペッツバール望遠鏡 の誕生

(フォト・ビジュアル)望遠レンズとして重宝される、ペッツバールレンズ。アポクロマート望遠鏡に応用されたのは、1980年代の米国でした。(1980年代の日本は、通常タイプ+フラットナー)

ペッツバール系の設計、即ち 球面・コマ・非点・湾曲・歪曲 の5収差を、総合的にコントロールするというコンセプトのフォト・ビジュアル望遠鏡が、日本国内 (ペンタックス)で発売されたのは、百武彗星の雄姿が見られた1996年。3年後の1999年、タカハシも続きました。

現在では、第3世代のペッツバール系望遠鏡が、広く使われています。更に改良された、第4世代のペッツバール系望遠鏡の登場も期待されます。  
ネオ・ぺッツバール望遠




★ (メモその他 5) 望遠鏡レンズ自作の歴史

1960〜1970年代にかけて、日本国内の天文雑誌・書籍等で反射望遠鏡の自作記事は多数見ることが出来ます。しかしながら、屈折望遠鏡の自作記事は殆ど無く、唯一詳しい記述のものは、木辺成麿氏の「新版・反射望遠鏡の作り方」(1967年初版)です。設計に関しては簡便法による曲率計算のみで、光線追跡等の詳しい記述はありません。

パソコンが普及してきた1980〜1990年代、天文ガイドにおいて西条氏が望遠鏡レンズ設計に関して数十回の連載をしていますが、実際に研磨する部分には触れられていません。(同時期に、望遠鏡レンズ設計ソフト「テレオプト」が発売) その他、望遠鏡レンズの設計・研磨をひと通り行った記事は、星の手帳において、村山定男氏のものがあります。

一般個人のレンズ自作の国内文献は、現在に至っても殆ど見かけません(当サイトのみ?)

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